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【雑談】心の痛みの値段?~慰謝料って難しい~その2

お世話になっております,弁護士の小見山です。

連日,事務所のメンバーの自己紹介の投稿が続いておりますね。
宇都宮さんと趣味が被っていることに驚きつつ,
シーカヤックなど上級者であることは疑いようがないので,
にわかアウトドアの小職は,今後キャンプや釣りについての投稿は今後差し控えることでしょう。

さて,そんなこんなで,前回からの続きです。
前回は,いかに慰謝料が難しい話なのかとたっぷり言い訳,
もといハードルを下げることに尽力してしまいましたが,
今回は,慰謝料の中でも比較的定型の基準が存在する交通事故における慰謝料の考え方についてのお話です。

交通事故でお怪我をされた場合,「こんなもん唾を付けとけば治る!」という
ワイルドな方もいらっしゃるかもしれませんが,
大抵の場合は,病院に通われるかと思います。
中には重傷で入院を余儀なくされる場合もありますし,
最近も凄惨な事故がありましたが,
最悪の場合は死に至ることも少なくありません。

最愛のご家族を失う痛みは,筆舌に尽くしがたいものですが,
前回お話したとおり,それでも損害賠償請求するには,
その痛みを金銭に換算しなければなりません。
また,前回お話したとおり,他の事例との公平も考えなければなりません。

そこで,交通事故の場合,一つの基準として出てくるのが,通称「赤い本」です。
赤い本によれば,死亡事故の場合の慰謝料は,
一家の支柱,いわゆる大黒柱の方であれば2800万円,
母親や配偶者の場合には2500万円,
その他独身の男女や子どもや幼児等の場合には2000万円から2500万円というのが一応の目安とされています。
これを高いとみるか,安いとみるかは様々な意見があるかと思いますし,
「人の命は等しく尊い」と考えれば,
そもそも亡くなられた方の属性や立場によって金額が異なるのはおかしい気もします。

ただ,上記の基準は,これまでの裁判例の集積から,
一応の目安として示されたものにすぎず,上限を定めたわけではありません。
実際にはその他のより細かい事情を斟酌して慰謝料の額を定めることとなり,より多くの金額が認められることもあります。
そういった意味では,ある意味「最低ライン」という目安にはなるかもしれません。

また,属性や立場によって金額が異なるのは,
残されたご遺族の方々のその後の生活に対する不安の違いにも着目しているのではないかと思われます。
つまり,属性や立場を考慮しているのは,
大黒柱以外の金額を下げる理由として考慮しているのではなく,
金額を増額させるための理由として,
大黒柱であるとか,母親や配偶者であることを考慮してきたという歴史があると思われます。
そういう意味では,上記でいう「その他独身の男女や子どもや幼児等の場合」が原則で,そこから別の要素があれば,更に増額されていくと考えるのが穏当かと思われます。

ところで,死亡事故の場合,被害者は亡くなられていますから,
以前投稿でお話ししたように,実際には相続が発生し,
相続人が被害者に代わって,被害者本人の慰謝料を請求することになります。
しかしながら,「死の苦痛」というのは,正に亡くなる瞬間に感じるはずのもので,
死亡によって発生するものだとすると,なかなかややこしいことになります。
というのも,仮に本人の死亡によって発生する苦痛であるとすれば,
死亡と同時又は死亡後に慰謝料が生じることになり,
相続することができないのでは?という疑問が生じてしまいます。
頭の良い学者さんたちはややこしいことを考えるものですね。
これについては,
講学上,死亡そのものに対する苦痛ではなく,
死の直前までに本人が感じた苦痛を慰謝すべきものであるから,
死亡と同時に相続されるのだ,なんて説明がされます。
あまり意味のある議論ではない気がしますが,
教科書にはこんなことが書いてありますよぉというお話です。

さて,亡くなれた場合は以上のとおりですが,
お怪我をされた場合はどうなんでしょうか。

腕を切断したら,○○万円,骨折は○○万円,うーんむち打ちは○○万円!
なんて症状や傷病名ごとに慰謝料を考えるということもできそうですが,
同じ骨折でも箇所や程度もそれこそ千差万別ですから,
なかなか症状や傷病名を基準にするのは難しい。
そこで,交通事故の実務では,治療期間に応じて慰謝料を算定します。

え?治療期間なんて,それこそ面倒な人は通わないだろうし,
逆に痛くもないのに通う人もいるんじゃないの?なんて疑問も出てきそうです。
しかしながら,本当に痛いと感じていたら,いくら面倒な人でも
普通は病院に通うよね,と一般には考えることができ,
逆に病院に通わないということは,その程度の痛みとも取れます。
痛くもないのにわざわざ病院に通う人はどちらかといえばレアケース
ということ自体はご納得いただけるのではないかと思います。
このように,一般的にA=Bだよね,といえるような関係を「経験則」といいますが,
怪我をされた場合の慰謝料算定においては,
「傷害を負い,かつ痛みを伴うのであれば,通常は通院する」という経験則が大前提となります。
その上で,同じような怪我であれば,人の治癒力もそう大して変わりませんから,
大体同じくらいの治療期間が必要になるはずだよね,それじゃあこれを基準にしよう!と考えたわけです。
また,治療というと,風邪の時にお薬もらって帰る的なイメージをしがちですが,
交通事故の場合は,治療というより,いわゆる「リハビリ」が多く,
経験された方は分かると思いますが,なかなか面倒ですし,辛いものです。
辛い?そうです,治療期間=苦痛を感じる期間でもあるわけです。
精神的苦痛を慰謝するのが正に慰謝料ですから,
そういう意味でも,治療期間は,慰謝料の算定基準としてピッタリなのです。

治療期間といっても,入院して退院後も通院する場合や,
通院だけという場合もありますが,入院って一般に通院より大変というイメージはあろうかと思います。
ですから,基準としても,入院と通院は区別して算定します。
より具体的には,「赤い本」の中に「入通院慰謝料」と題する算定表があり,
これを基づいて具体的数額を算定することになります。

↓↓↓↓実際の算定表はこんな感じです↓↓↓↓
入通院慰謝料算定表

どうして2つも表があるかというと,
交通事故の場合には,骨折など重大な傷害の場合もありますが,
いわゆるむち打ちなどで,ご本人が「痛い」と仰っている以外に,
医学的にその「痛み」を説明できないような場合があります。
そのようなの比較的軽微な傷害に分類できるものは,
「別表Ⅱ」の方で算定することになります。

表の見方は,別表Ⅰも別表Ⅱも同じで,
縦軸が通院,横軸が入院で,
それぞれ期間に相当するところ見ていくことになります。
「1月」,「2月」と書いてありますが,
これは,1か月,2か月という意味になりますが,
計算上は,1か月=30日とするので,
「1月=30日」,「2月=60日」となります。

例えば,現実にはあまりありませんが,入院のみの場合で,
入院期間が90日であれば,
ピッタリ3か月ということになりますから,
横軸の「3月」の部分を見ればよいわけです。
上記の例では,別表Ⅰなら145万円,
別表Ⅱなら92万円となりますね。
通院のみである場合は,
見る場所が縦軸の部分になるだけで,考え方は同じです。
例えば,通院が90日なら,
縦軸の「3月」部分をみると,
別表Ⅰなら73万円,別表Ⅱなら53万円となります。
やっぱり通院より入院の方が金額が大きい=精神的に辛い
と考えられているようですね。

さて,ここまでは比較的簡単ですが,
現実には,切りの良い治療期間になることは稀で,
何となれば,入院後にリハビリのために通院しているという場合もあります。
一つ一つ見ていきましょう。

まずは,30日で割り切れない場合です。
例えば,通院のみで95日とかの場合はどうすれば良いでしょう。
「5日くらい切り捨ててしまえ!そうすれば3月ピッタリだぜ!」
なんて考え方もあるかもしれませんが,
105日の場合は,「90日+15日」となるので,
切り捨てるのか,切り上げるのか困ってしまいますし,
何より2週間以上もの期間をなかったことにしたり,
あったと仮定したりしていては,
「公平」という観点から大変疑問ですし,
精神的苦痛を慰謝するのが慰謝料なのに,
切り捨てられたり,仮定されては正確性に欠けますね。

そこで,きちんと端数も考慮して計算します。
ざっくり説明すると,
30日で割り切れるところまでは,
そのまま表を当てはめて,
端数の部分は「30日分の○○日」と分数的に考えて,
該当する端数の月額を乗じればよいだけです。

例えば,先ほどの通院のみで95日という例で考えてみます。
95日は,「90日+5日」に分解できますから,
「3月+5日」と考えられます。
このうち「3月」の部分は,そのまま表のとおり当てはめます。
別表Ⅰなら73万円,別表Ⅱなら53万円です。
それから,残りの「5日」を「5日/30日」と考えます。
ここでいう「5日」は,
より正確には,91日から95日の「5日」で,
「30日」は,91日から120日までの「30日」です。
そのため,「5日/30日」=「91日から95日/91日から120日」となります。

ここで一旦表に戻ってもらうと,
「4月」の部分は,1日から120日までの金額ですから,
そこから1日から90日の金額を引けば,
先ほどの91日から120日までの金額が出せそうです。
表でいうと,「4月(=1日から120日)」から
「3月(1日から90日)」の金額を差し引きすると,
91日から120日の30日分の金額になるわけです。
そこで,「4月」は別表Ⅰなら90万円,別表Ⅱなら67万円ですから,
先ほどの「3月」(別表Ⅰなら73万円,別表Ⅱなら53万円)を引くと,
差額は,別表Ⅰなら17万円,別表Ⅱなら14万円ということになります。
この差額が「91日から120日」までの30日の金額なので,
30日で割ってしまえば,1日分の金額が出せることになりますね。
そうすると,
別表Ⅰなら,17万円÷30日=5666.666…円≒5667円
別表Ⅱなら,14万円÷30日=4666.666…円≒4667円
となりますから,これに5日をかけると,
別表Ⅰなら,5667円×5日=2万8835円
別表Ⅱなら,4667円×5日=2万3335円
となり,最初に見ていた「3月」の金額を足せばよいわけです。
したがって,
別表Ⅰなら73万円+2万8835円=75万8835円
別表Ⅱなら53万円+2万3335円=55万3335円
という結果になります。
一応計算式で示すと,
別表Ⅰなら,730,000円+{(900,000円-730,000円)×5日÷30日}
別表Ⅱなら,530,000円+{(670,000円-530,000円)×5日÷30日}
といった感じになります。

いやぁ文章で説明すると長いし,分かりにくいですね。
でもいいんです。だって,慰謝料って難しいので!

でもって,さらに分かりにくいのが,
入院と通院が組み合わさったパターンです。
もはや文章で説明するともう一つ記事にできるくらいですが,
ここで当職の心は折れてしまったので,
職務を放棄して気分転換のため,
ワールドカップ2022日本対スペイン戦に切り替えることにします。

日本が勝つか,次回続くかは神のみぞ知る。
頑張れ日本。

令和4年12月吉日

            弁護士 小見山 岳

追記
日本勝ちましたね。
少し元気出たので,
もしかしたら,きっと,多分,少しだけ慰謝料編続くかも・・・?