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【雑談】心の痛みの値段?~慰謝料って難しい~

お世話になります,弁護士の小見山です。

毎月末の投稿を目標にしておりましたが,
何だか事務局便りが連日投稿されているので,
しれっと投稿サボってもバレないのではないかという
甘い考えでおりましたが,
かえって投稿していないことが目立つなと思い,
慌てております,なう。

さて,ここ数回小職は,箸休め的な投稿ばかりしていたので,
そろそろ法律的な投稿もしておこうと思います。

今回は,表題のとおり,慰謝料についてのお話です。

「慰謝料」という言葉自体は,聞いたことのある方も多いかと思いますが,
そもそも慰謝料とは,損害賠償請求における「損害」の一つに数えられるものです。
講学上,損害については,損害が換価可能な「財産的損害」と本来的には換価不能な「精神的損害(非財産的損害)」に区別したり,
損害の性質から「積極損害」と「消極損害」に区別されたりします。

積極損害とは,現実に存在していた財産が喪失した場合で,
消極財産は,現実には存在はしない損害の喪失した場合,要するに得られたはずの利益と思ってもらえらたらと思います。
例えば,怪我を負わされて治療を受けた場合,
治療費を支払うことになりますが,
その治療費は,お財布から支払うことになりますから,
「現実存在したお財布のお金」を失うことになるので,積極損害といえます。
逆に,車が店舗に突っ込んで営業できなくなったなんて場合や,
営業車が追突により損傷して,修理中営業できなくなったなんて場合には,
その事故がなければ営業により利益を得ていたとすれば,
その売上分損をすることになります。
「営業できれていれば得ていた利益」は,あくまで将来的な利益で,
「現実には存在しない」ため,消極損害となります。

また,財産的損害とは,読んで字の如く,要するに金銭に置き換えられる種類の損害です。
例えば,交通事故で怪我をした場合の治療費や損傷した車両の修理費なんかは,
ばっちり金額が出ますよね。
他方で,怪我をさせられたことによる痛みや,その後の治療による苦痛というものは,
正に千差万別で,本来的にはお金に換えることはできないはずものです。
こういった内面の苦痛それ自体を精神的損害といいます。

本来的に換価不能とはいっても,
残念ながら,民事訴訟で相手方に請求できるものは基本的には金銭のみです。
(謝罪広告など一部例外もあります。)
そのため,本来的には換価不能な精神的損害も何とか金銭に換算して,
金銭で賠償してもらう必要があります。
このように,被った精神的苦痛を慰謝するために支払われるものうべきものなので,
かかる精神的損害のことを一般に「慰謝料」と呼びます。

さて,慰謝料がどんなものか,ざっくり説明しましたが,
慰謝料それ自体が,そもそも本来的にお金に換算し難い損害ですから,
お金に換算するというのはとても大変です。
それもそのはずで,
例えば,旦那や妻に浮気された精神的苦痛といっても,
人によって感じ方は様々ですし,
同じような怪我をしたからといって,
感じる痛みが皆同じとは限りません。
同じような理由で相手方に慰謝料を請求するとしても,
500万円払ってもらわないと納得できない人もいれば,
1000万円払ってもらっても納得できない人や,
逆に100万円払ってもらったら納得する人がいるかもしれません。

ですから,依頼者さんなどからよく「慰謝料の相場はどのくらいですか。」と聞かれますが,
大抵は「慰謝料に相場は存在しません。」とお答えします。
これは,上記のとおり,慰謝料の本質からそのようにお答えしています。
最終的に裁判所で認められるか否かは別ですが,
いくら請求しても請求額が高いからという理由で門前払いされることはありません。

とはいえ,同じような怪我をされたAさんとBさんがいて,
Aさんは慰謝料として500万円が認容され,
Bさんは慰謝料が50万円しか認容されなかった
なんてことになったら,何だかおかしい気がしますよね。

これは,慰謝料の本質からの制限ではなく,
他の事例と比べたときの「公平」という観点からの制限です。
慰謝料そのものには,本質的な制限はなく,
「精神的苦痛は人によって違う」でよいのですが,
「同じような状況下で全く判断が異なる」なんて裁判所があったら,
皆さんそんな裁判所を信用できるでしょうか。
茶碗の裏側くらいしか心の器がない小職は
「なんであいつは500万円も認められたのに,おれは50万円なんだ!
殆ど同じ状況じゃねぇか!」と憤ってしまいます。
極端な例を挙げましたが,
「裁判」が国民からの信頼を基礎に成り立っている手続である以上,
この「公平」という観点はとても大切な考え方なんです。
また,損害賠償そのものが,「損害の公平な負担」ということを
一つの価値として認めているので,
特に損害賠償においては,重要な視点といえます。
ただ,当事者からすれば,他の事例なんか関係ありませんし,
実感として公平性を感じにくい事柄なので,
なかなかご納得いただけないことも多いです。

さて,長々と話してしまいましたが,
以上のとおり,
本来的に慰謝料はお金に換算するのが難しいものですが,
「公平」という視点から一定の限度が生じるものということはご理解いただけたかと思います。
問題は,じゃあその「一定の限度」ってどんなものなのか,ということです。

これがまた難しい話なのですが,
慰謝料と言っても,出てくる場面が色々ありますが,
よく問題になるのは,離婚の場合と交通事故で怪我をした場合かと思います。

浮気の場合は,そもそも慰謝料の発生原因として,
夫婦間の平穏な生活を侵害したことが挙げられるので,
婚姻していた期間や,不貞行為の期間や頻度など
様々な事情を考慮して判断するので,
この場で「大体このくらい」という基準をお示しすることはできません。
ただ,浮気によって離婚する場合もあれば,
子どものことを考えて離婚を踏みとどまる方もいらっしゃいますが,
上記のとおり,平穏な夫婦生活を侵害したのであれば,
通常であれば,離婚するはずであると考えると,
離婚したか否かによっても,慰謝料の額が変わることになります。
個人的には離婚は浮気した後の事情でしかないし,
何より離婚した方が金額が増えるなら離婚するという方もいると思うので,
離婚したか否かを考慮するのはおかしいような気がしていますが,
今のところは事実上は考慮要素として影響してしまうようです。
一概には言えませんが,
浮気によって信頼していたパートナーに裏切られたという思いは,
かなり辛いものがありますが,
実際に認容される慰謝料は皆さんが思っているよりかは低額なことが多いです。
もし気になる方がいれば,ぜひ一度ご相談を。

他方で,交通事故で怪我をされた場合というのは,
一応の基準が存在します。
聞いたことがあるという方もいらっしゃるかと思いますが,
交通事故における損害の算定基準には,
自賠責保険におけるいわゆる自賠基準,
任意保険各社が定めるいわゆる任意基準,
裁判でも用いられるいわゆる裁判基準があります。

ちなみに,裁判基準を「弁護士基準」なんて呼ぶ場合もありますが,
いずれにしても日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年発行する
  損害賠償賠償算定基準
という本をベースにしたものを指します。
この本が毎年絶妙に色味は異なるのですが,
いずれも赤いので,「赤い本」なんて呼んでいます。

さて,この裁判基準がどんなものかというと……
と気が付くとかなり長くなってしまったので,
ここから先は,また今度。

それでは,次回もお楽しみに。

令和4年11月吉日

           弁護士 小見山 岳