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【雑談】遺言で残したのは遺恨?~遺産相続あれこれ4~

お世話になります,弁護士の小見山です。

気が付けば,シリーズ第4回。もはや長期連載。
きっとこれがシリーズ最後の投稿になります。おそらく,多分,きっと。

さて,前回まで相続と遺言について色々と申し上げてきましたが,
前回の最後に突然現れた「遺留分」。
ドラマ最終回直前に現れた謎の人物並の唐突さでしたが,
遺言作成における要注意人物,もとい要注意事項の遺留分ですが,
こいつがなかなか厄介なのです。

前回も簡単にご説明したとおり,
推定相続人の最低保障分みたい制度なのですが,
民法第1042条第1項を見てみると,
「兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に,
 次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
  一 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
  二 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1」
と書いてあります。
また,民法第1043条第1項には,
「遺留分を算定するための財産の価額は,
 被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に
 その贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。」
と書いてあります。
さらに,次の民法第1044条第1項前段には,
「贈与は,相続開始前の1年間にしたものに限り,前条の規定によりその価額を算入する。」
と書いてあります。
ふむふむ。よく分かりませんね。

もしも,よく分かったという方がいたら,
もはやこの記事を読む必要は皆無ですので,
どうぞブラウザバックして,
他の有益な記事をご参照ください。
小職と同じで,よく分からぬという方は,
一緒に遺留分の謎を解き明かしていきましょう。

まず,「兄弟姉妹以外の相続人は,」とあるので,
第3順位の相続人には関係ないということが分かります。
なので,遺留分が問題になるのは,
配偶者及び子又は直系尊属が推定相続人となる場合です。

続いて,極めて分かりにくいですが,
要するに,
 相続財産+1044条の贈与の額-債務=遺留分の元になる財産
ということなのですが,
分かりにくいので,ここではとりあえず相続財産と理解してもらって構いません。
そうすると,
 1 直系尊属のみが相続人である場合は,相続財産の3分の1
 2 前号に掲げる場合以外の場合は,相続財産の2分の1
が遺留分として受け取れますよということになります。
直系尊属のみというのは,
要するに未婚又は離婚していて,子がいない場合で,
両親や祖父母が存命中ということですから,
なかなかのレアケースであって,
大抵の相続は,上記2の場合ということになります。
ん?相続財産の半分が遺留分ということ??え!?
と思う方も多いかと思いますが,そうなんです。
ただし,あくまで「遺留分」というのは,
最低保障の「枠」のようなものですから,
実際に相続人が主張できる割合は,
当該相続人の法定相続分に限られます。
(推定相続人が1名の場合は2分の1ということになります。)

半分も遺留分だなんて,
自分の財産なんだから,自由に処分させてくれよと
言いたくもなる制度です。
講学上,相続が残された家族の生活保障の意味もあるから認められている
とか説明がなされますが,
実際に批判も多いところではあります。

しかしながら,例えば,推定相続人が配偶者のみである場合,
何を思ったか被相続人は,
愛人であるAさんに全部相続させる旨の遺言を書いたとしましょう。
愛人の存在を知ってても,配偶者ぶち切れませんか?
今まで献身的に尽くしてきたし,
被相続人の嫌なところも我慢してきたというのに,
ある日突然現れたポッと出の若い愛人が全部の財産持って行きまーす
となったら配偶者が浮かばれません。

というわけで登場するのが,遺留分なわけですね。
上記の例の場合は,配偶者は遺贈がなければ,
全部相続するはずだったのに,
遺贈により相続分が0になりますから,
相続財産に対する2分の1の遺留分全部が侵害されています。
そのため,たとえ愛人に遺産全部を渡すという遺言があっても,
遺留分に満たない分,つまり相続財産の半分相当の金払え!と言えるわけです。
なお,上記の例と異なり,配偶者と子1人が推定相続人の場合,
遺留分という「枠」は2分の1ですが,
これを相続人間で分けることになるので,
配偶者と子がそれぞれ遺留分の2分の1ずつ,
つまり,相続財産の4分の1がそれぞれ遺留分になります。
この遺留分が侵害されているから金払え!という請求を「遺留分侵害額請求権」といいます。
ちなみに,この権利は,民法改正前は「遺留分減殺請求権」といい,
「いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん」という
邪王炎殺黒龍波(幽遊白書)みたいで響きがカッコいい権利でした。

さて,ざっくりと説明した遺留分ですが,
遺留分があるといっても,
遺言の効力とは別問題ですから,
遺言が有効なら当該遺贈が無効になるというわけではなく,
あくまで遺留分を侵害した限度で金払え!といえるだけです。
また,わざわざ請求しなければならず,
請求せずに1年経つと消えてなくなります。
そういう意味では,自分の財産は自分で処分できるという原則が
制度の根底にはあるといえますね。

さてさて,ここまで説明すれば,
遺言を作成する際に注意しなければならないのが,
この遺留分という制度なんですという意味が,
お分かりいただけたのではないでしょうか。

子らとあんまり仲が良くないからという理由では,
廃除もできませんし,
かといって,遺留分という最低保障を侵害すると,
結局,遺留分額侵害請求をされてしまい,
亡くなった後にもめてしまう可能性が出てきます。
先ほどの例では,説明のために簡素化してますが,
実際には,遺留分の基礎となる額のうち,
算入すべき贈与の有無などで争いになることが多く,
かえって遺留分を考慮せずに遺言を作成してしまったがために,
ご遺族と受遺者との間に深い深い遺恨を残す結果になってしまうこともあります。
(タイトル回収!!!)

以上のとおりですので,遺言を作成する際には,
相続分の指定のみならず,
遺産分割方法まで指定することに加えて,
遺留分の侵害とならないかどうかも気を配る必要があるのです。

最後に,では遺留分の侵害にならないようにするにはどうしたらいいの?
という疑問にお答えしますが,
結論としては,法律で決まっていることなので,
遺留分を0にするのは無理ですというお答えになります。
ただし,遺留分額侵害請求権を行使させないという意味では,
最も簡易な方法は,遺留分相当額の財産を遺言で指定しまうことです。
ですが,これは遺留分相当額を遺言で渡すというだけなので,
遺留分侵害額請求はできませんが,
最低保障はしていることになります。
それでは納得できない,最低保障すらしてあげたくないという方は,
国会議員になっていただいて,
民法を改正して遺留分制度を廃止していただくしかありません。
法律を駆使してなるべく希望に沿うようにすることはできますが,
法律で決まっていることを変えられるのは,立法権者のみです。
(一応,家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することは可能ですが,
強制することはできません。)

とはいえ,限界があるものの,
生前に生命保険契約を利用することで,
結果的にある程度遺留分の額を減少させること自体は可能です。

というのも,死亡保険金は,受取人を指定していた場合,
相続財産には含まれません(税務上は扱いが異なるので注意!)。
これは,受取人を指定していた場合,
受取人と保険会社との契約関係に基づく請求権であるため,
被相続人の保険会社に対する請求権ではないと考えるためです。
これまで説明したとおり,
相続は,あくまで被相続人の地位を引き継ぐものですから,
被相続人の権利じゃないものは,引き継げないのです。
長期的に将来相続財産となる預貯金の額から,
生命保険料を支払い,相続開始時の相続財産を減少させることによって,
結果的に遺留分の額を減少させるということが可能となります。

もっとも,生命保険契約では,受取人に制限がある場合が殆どですから,
全ての場合に利用できる方法ではありませんし,
いつ亡くなるかなんて誰にも分からないので,
減少幅も不明確と言わざるを得ません。
なかなか厄介なんです,遺留分。

なんだか駆け足の割には,長々と話してしましましたが,
正確性よりも説明の分かりやすさを優先したつもりなので,
個別の案件によっては,異なる結論となる場合もあり得ますので,
参考程度に留めていただいて,
詳細については,ぜひとも当事務所までご連絡ください。
以上,「遺言が残したのは遺恨?~遺産相続あれこれ~」でした。
ではでは!

  令和4年7月吉日
              弁護士 小見山 岳